さて今回のお題のレンズ。
当然ながらCG上のカメラにはレンズはありません。
しかし実際のカメラにレンズは不可欠で、レンズを通すことで光を集め光の像を作ります。
ただ問題になるのが、この時、収差やボケ、フレアなどが発生することです。
これらはレンズを通して起きる光学的要因です。
逆に考えるとこれらを再現することでCGがよりフォトリアルになると言うことです。
光学的と言うからにはやっぱり、決まりごとや原因となる物が存在します。
それらを知るとよりフォトリアルになるんでは無いでしょうか?
人間の目も水晶体と呼ばれるレンズがありカメラと似たような現象が起きていることもあります。
例えば視力の低下。これは目のピント調節がうまくいかずいわゆるボケが発生します。
当然何かを注視した時もその背景はボケて感じるはずです。
人によって強い光の光源を見ると光源の周りにフレアを感じたりもするかと思います。
はじめに、光は非常に強いエネルギーを持っています。CG上で光学的に正しくというからには光の幅を大きく
持っているOpenEXR、32bitフロー、リニアワークフローなどが非常に大きな意味を持ってきます。
先に説明するボケなどもより強いエネルギーのある部分が強くボケます。色収差なども同様です
Focal length:焦点距離(前回と同じ)
平行な光が入った時、光の焦点が合う距離=焦点距離です。
?ズームレンズって書いてある焦点距離と胴体の長さがあわないけど?となりますね。
ざっくり解説:レンズは複数のレンズが組み合わせで出来ています。これらを一枚のレンズと仮定した時焦点を結ぶ距離
レンズに記載されている焦点距離です。(正しくは違いますがCGをする上ではあまり関係ないので省略します。)
F-number:絞り・F値

絞りが低い値であればより明るい状態で撮影できる=照明が要らない、明るいレンズである。
絞りが高い値であれば、余計な光をカットした絞っている状態。暗くなる
絞ることで被写界深度が深くなり、ピントの合う範囲が広がる。
映画などでは照明が用意され明るいため比較的絞った状態での撮影が多い
絞りは絞り羽と呼ばれるもので構成され、これらの枚数(形状)によってボケの形状フレアの形状が変化する。
※F(F値)=f(焦点距離)/D(レンズの直径)により求められる。
F値が小さいほど明るいレンズ、大きいほど暗いレンズ
明るいレンズ:F値の低いレンズ。光量が少なくても明るく撮影出来るので明るいレンズとかと言われやすい
写真を撮る人は明るいレンズを求める人が多いが映像では光源やレフによる補助光があるためさほど重要ではない。
光を多く取り込むためレンズの経が大きいかより精度の高いレンズが必要になる。何れにしてもフレアや収差を抑えるため
通常より複雑な設計やコーティングが必要なため値段も高いものが多い。
Vignette:ビネット・周辺減光
レンズ周辺になるほど届く光量が少なくなり画像の四隅が暗くなる現象。

より広角のレンズで起きやすい。望遠レンズでも焦点距離が伸び光が届きにくくなり発生する。
絞ることで軽減させることが出来る。

参考写真※わかりやすくレベル補正していますが実際に望遠レンズで発生している例
CGで再現する場合演出表現として加えることが多いい。被写体を際立たせるためなど
最近のレンズではかなり出にくく設計されている。逆に言えば時代物などに加えると古さの表現の一つにもなる。
レンズフードが映り込んだり、レンズのサイズが小さくレンズのサークルが写り込んだ状態はケラレという。
※英語のビネットは両方を指す単語のようですが
DOF(Depth of field):被写界深度・ボケ
・ボケ
同じ被写体を同じサイズになるように撮影しようとするとより望遠のレンズのほうがボケる。
F値が低ければ低い程ボケ幅は大きくなる。=広角域でも単焦点のF値の低いレンズはボケる。
レンズ構成が少ない単焦点のレンズなどの方がより綺麗なボケがでる。
ボケの形状は基本円形である。F値を絞ると絞りの形状が現れることがある。
写真において絞りの形状が現れる事は被写体よりそちらに目が言ってしまうため嫌われる。
なので多くのレンズはある程度絞っても円形を保つように設計されている。
映像に置いてはなぜか絞りの形状が出ている方が好まれる?上記の通り絞って撮影する事が多いため形状が
出やすいというのもある。
映像系ではアナモフィックレンズ独特の効果を好む人が多いです。アナモフィックレンズを使うとボケの形状は楕円形に
なります。理由等、詳細は別の記事にしようと思います。


左>一般的なボケ 右>絞りの形状が現れている例(※どちらも見やすくするためトリミングしています)
・被写界深度

許容錯乱円とは点光源を照らした時、点として見える最小範囲。デジタルで1画素が最小だったりする。
コレがいわゆる被写界深度と呼ばれるものです。
ここ難しい話はおいといてそれぞれの値は以下のように関係性があります。

これらのルールを破ることでミニチュアが大きく見えたり、実景がミニチュアに見えたりするように出来ます。
CGでは簡単に被写界深度をいじる事が出来ますが安易な設定にするとスケール感が狂った印象になってしまいます。



Flare:フレア・ゴースト

レンズフレアと言われる物。強い光がレンズに差し込んだ時レンズ内で光が乱反射して起こる現象。
良いレンズであれば起きにくく設計されている。基本的にはレンズは表面のコーティングにより反射を抑えている
さらには、絞ること余計な光をカットし、和らげる事が出来る。
ボケ同様絞りの形状がフレア、ゴーストの形状に出ます。
光源orカメラが動いた場合ゴーストは必ずレンズのセンターを通るライン上で移動します。
フレアは人間の目でも起きます。これは強い光源を見た時はまつげに光が反射して起きたり、または水晶体に反射して。
ゴーストはレンズに反射しているのでよりレンズの枚数の多い望遠レンズの方がより連なって発生する。


どちらもレンズの汚れに対するゴーストも出ていますが一般的によく見る感じのフレア。絞りの形が出ている


左>光源の色も関係する例。 右>レンズによって独特なゴーストが出ている例(ディストーションなどによって)
※上4枚、いずれもわかりやすくするためトリミングしています
ボケの形状は同様フレアもアナモフィックレンズでは横に伸びた独特の形状が出ます。詳細別記事にて

・ハレーション
フレアと同じ扱いにされがちですが、正しくはフィルムに強い光が入り白くぼやける現象のこと。
又は光が当たり、再度感光してしまった状態、古い写真でフィルムが焼けてしまってるとか言いますよね。
映画撮影で言うハレギリとはフレアギリの事です。
Optical aberration:収差
収差には2つあり色収差と単色収差です。単色収差はさらにその中で5つに分類されザイデル5収差と呼ばれる
この中で基本的にCGなどに特に関係あるのは色収差と歪曲収差です。
ザイデル5収差
球面収差、コマ収差、非点収差、像面湾曲、歪曲収差
基本的にはこれらが複合的に発生しているが、多く目にする(除去しにく)物が歪曲収差である
球面収差は焦点が合わずソフトフォーカスのかかった画になる。
その他の収差はCG上で再現する事は少ないので説明は省きます。
Lens distortion(Radial distortion):歪曲収差・レンズディストーション
レンズの周辺になるほど厚みの変化が大きくなり、光の筋が歪んでしまい結果として象が歪む。
樽型と糸巻き型さらにこれらの合わさった陣笠型がある。

映像で見ると厄介そうだが、丸いレンズの周辺に行くほど外に引っ張られたりすると考えれば簡単。
これらはレンズの構成によって様々だが、ズームレンズの広角側では樽型、望遠側では糸巻き型になりやすい。
同じ焦点距離であってもレンズによって歪みのレベルは様々でレンズの設計志向によって異なる。
当然CG上のカメラには発生しないので実写合成などをする場合あらかじめ歪みを除去したプレートを用意した方が良い。
またマッチムーブなどをする場合も除去しておかないと精度が落ちる。
合成時除去時の数値を元にCG側に歪みを加える。
正確に除去したい場合は撮影時にグリッド状のものをレンズ正面に置き撮影しておく。
Chromatic aberration:色収差
光の波長によって屈折率が異なるため色のズレが出てしまう現象。(虹なども波長の違いにより見られるもの。)
コントラスト差の激しい部分で目にしやすい。
これらは、軸上色収差と倍率色収差の2つがある一般的に倍率色収差の方がよく目にする。
多くのレンズはこれらが発生しないよう色消しレンズと言われるようなものでズレを抑えている。


・Axial Chromatic Aberration:軸上色収差
軸上色収差とは光の波長によって焦点距離のずれが出てしまう現象。接写で発生しやすい。
ピントを合わせた部分では発生せずその奥手前で色のズレが出る。

・Lateral Chromatic Aberration(Chromatic Difference of Magnification):倍率色収差
倍率色収差は特に広角レンズで起きやすい。画面周辺に行くほど色のずれが大きくなる。絞る事により軽減する。
レンズディストーションと一緒に発生しやすい。

色収差は、CGで再現する場合キツめに入れがちだが、そうそうキツくでるものでは無い。
特に映画用の高いレンズではかなり出にくい設計がされている。ただし、完全に除去するのは非常に難しい
・Purple Fringing:パープルフリンジ
画面のコントラスト比の激しい部分に紫や青のエッジが発生する現象。
要因その一、もともと青寄りの光は波長の特性上ズレが大きくなりやすく、補正が難しいのでずれが発生しやすく青や紫が
ずれて見える。
要因そのニ、デジタルカメラで発生しやすく、要因としてフィルムより記録出来る可視光域の幅が広いため可視光域
ギリギリの紫や又は紫外線、赤外線を記録してしまう。(可視域外の補正はあまり考慮されていないから)
要因その三、としてカメラのセンサーの性能上コントラスト差の強い箇所で色とびのような事が発生してしまうため
(カメラのセンサーの種類によって緑を捉える部分が多いものがあり赤青が緑に流れ紫になり、より発生しやすい)


パープルフリンジの例。赤枠拡大図>おそらく要因一と三によるもの

要因一、二、によるものと思われる例。照明によって青~紫外域の波長域が強いため※トリミングしてます。
いずれも色収差については別の記事でさらに詳細を書こうと思います。
レンズの汚れ
映像作品でレンズの汚れを足して臨場感やリアルさを出すことがあります。じゃあコレは現実的に考えるとどうなのか?
まずレンズ面(レンズ保護のカバーや、フィルターも含む)に付いているゴミが見えるということなので被写界深度が
非常に深いということになりますね。又はこれらに光が当たることでボケて写り込んでいる。
基本このどちらか、又はどちらもになりますが。望遠レンズでは基本被写界深度が浅い、ゴミがぼけてみえたとしても
ボケ幅が大きく基本見えません。発生しやすい条件をあげるならセンサーサイズは小さめ、広角域でレンズ口径は大きめ
なので案外ハンデイカムとか砂埃がついたものが映り込んだりしますね。
さらに、それらのゴミにピントが合っているとなるとレンズ面より手前に保護用のガラス等がある、フォーカスポイントが手前で
ある等の条件が発生します。特に強い光源があると反射によって現れやすいです。
映画等でも爆発シーンで写ったりして見えますがカメラが傷つかない用囲っているので保護ガラスに飛んできたゴミに
ピントが合ってる(多くはボケていますが)ということですね。
またレンズ表面(前)に雨など水滴がつくと、水滴がレンズの効果をし、ぼけたゴーストなどとして、画面に映ります。
この場合被写界深度などによらず映りやすく、弱い光源でも常時映り込む事が多いです。色収差もでたりします。


どちらもガラス越しに撮ったためガラスに反射した汚れが写っている。※トリミングしています。>
写真を用意していて出てきたので、おまけ
空気中のちりや大気による空気感もCGをリアルにするためには大切です。虹など大気による光学現象も多くあります。

前回と今回の内容をまとめたものが以下になります。※クリックで拡大(4000×2500)
お好きにお使いください。

>予備ダウンロードリンク(日本語版あり)
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